ゴージャスな花束
「ただいま帰りました」
玄関で圭の声がした。
「お帰り。早かったね」
僕が出て行くと、圭の手には綺麗な花束が抱えられていた。
「どうしたの?それ」
「雑誌の取材があってもらってきたのですよ。君にも見せたいと思いまして」
「ふーん」
僕に渡された花束の花は薔薇だった。でも、普通の真紅の薔薇と違ってこの花はもっと暗紅色で、ベルベットのように柔らかそうな花びらをしている。
それに・・・・・。
「いい匂いでしょう?これは、パパ・メイヤンという花なのだそうです」
「へぇ。珍しい花なんだろうね。花屋の店先でこんな花を見たことがないよ。それにいい香りだね」
僕は花束の中に顔をつっこんで匂いを楽しんだ。薔薇は甘いけれどぴりっとどこかスパイシーさを含んだ複雑で深い香りをしている。うん、いい匂いだ。
「・・・・・悠季、そろそろ思い出してくれませんかね」
圭のどこか不機嫌そうな声。
「え?ああ、ごめん。・・・・・お帰り」
僕は圭にお帰りのキスをして、圭はただいまのキスを返してくれたけど、それは毎日交わしている挨拶のキスではなくて、もっと濃厚で足から力が抜けてしまうような官能的なもので。
「圭〜っ!」
これはきっと僕が薔薇に気をとられた仕返しに違いない。まったくいつまでもベベなんだから。
僕は内心ぶつぶつとつぶやきながら、やっと開放してくれた腕をふりほどいてキッチンへと戻った。
「花束は花瓶に入れておくから。夕食にはまだ早いから、お茶を用意するね」
「ハイ・ティーですか、いいですね。では僕は着替えてきます」
僕は花瓶の中に薔薇を生けて窓辺に置くと、花は日に透けて真紅の鮮やかさを見せてくれた。しばらくの間、めで眺めてからラッピングに使われていた紙やリボンを片付け始めた。
「へぇ?こっちも変わっているなぁ」
よく見ていなかったけど、ラッピングに使われているのはなんだか和紙のような風合いの柔らかな紙を何色か重ねたもので、使われていたリボンも普通のものとはちょっと違っていた。
「なんだか絹みたいだなぁ」
薔薇の色に合わせたのか、赤いリボンは普通のリボンより幅広でしなしなと人やものにまといつくような柔らかさがある。
「捨てるのがもったいないようなリボンだ。でも、使うところなんてないだろうし・・・・・」
圭が階下に下りてくる気配がしたので、急いで包み紙やリボンを片付けて、紅茶とおすそ分けでいただいたクッキーを用意した。
熱いマリアージュフレールの紅茶をストレートで。花の香り豊かな紅茶だ。美味しい味と共に良い香りが心をリラックスさせてくれる。
「花束を活けたけど、日に透けるととても綺麗な花だね。そういえば、あの包み紙とかリボンとかも凝ってけど、頂いた方はよほどおしゃれな方なんだろうね」
「そうですね。かなり気を使ってもらったようです」
圭も花束の珍しさに惹かれて、伊沢邸に持ち込むつもりになったのだろう。でも・・・・・。
「気になりますか?」
「え?」
圭には僕が花束をくれた人がどんな人なのかあれこれ考えていることなんてお見通しなんだろう。
「花束をくれたのは、女性雑誌のインタビュアーですよ。この花束を持っているところを撮りたいと言われまして、少々凝ったものを用意してもらったようです」
「そうだったんだ」
撮影用ならそういうこともアリなんだろう。
「ほっとしましたか?」
「え?いや、そんなことはないよ。・・・・・でも・・・・・うん、ちょっと安心したかも」
圭の目元がふっとゆるんだ。僕のこんな嫉妬の白状を嬉しがっているらしい。
「実はあの花束を僕に渡してくれた時の言葉が気に入りまして」
「君のイメージに合わせたものとか?」
「惜しいですね。僕をイメージしたものではなくて、『僕が抱きかかえて似合う花束』だそうです」
そりゃ確かに圭が抱えればどんな花だって品があって優雅だろうけど。でも僕のイメージではもう少し豪華な感じがあってもいい気がする。薔薇は綺麗だけどそのまま持つと少し地味だし。
「それを聞いて嬉しくなりましたよ。確かに品位が高くてちょっと見ただけでは目を引く派手さはないが一度目に留まれば目を離すことが出来ないようなすばらしいもので、その薫りは高く奥が深い。・・・・・君のイメージですね」
「へっ?」
圭が何かまた妙なことを口走っているぞ?
「ですから僕が大切に抱きかかえるとすれば、悠季しか考えられませんからね」
僕は赤くなるまいと思っていたのに、ついつい赤面してしまった。うう、相変わらず口の達者なヤツ。
「花束についているリボンも花束を作ったフラワーアレンジャーのオリジナルだそうですよ。ですからちょっと変わっているでしょう?」
「へぇ?そうだったんだ」
僕はもう一度見てみたくなって片付けたリボンを持ってきた。確かに普通のラッピング用のものと違っているみたいだ。色も真っ赤というより朱かかかっているようで、和服で使う『くれない』という色だろうか。
「紅のしごきのように見えますね」
「えっ?し、しごきって・・・・・?」
「ほら、江戸時代に女性の腰紐に使っていたものですよ」
僕の手から取り上げると、くるくると掌に巻いて見せた。くすりと思わせぶりな笑顔と共に。
一瞬にして、僕の頭の中に紅い絹紐でくくられている僕が浮かんでしまった。
・・・・・うう、妄想が過ぎるぞ!
「悠季、これを使ってみませんか?」
こら!そんな誘いモードのバリトンを耳元で囁くなって!
「嫌だ」
「おや、どうしてです?今までにも君を縛ったことはあるでしょう?」
幾夜も、楽しみましたよね・・・・・、と僕の耳にそんな言葉を垂らし込んできた。
「だって、いつも僕ばっかりいいようにされて・・・・・」
うわ〜。それって縛ってもいいって言っているのと同じじゃないか!
「君の白い肌にこの紅色は映えると思ったんですがね」
いかにも残念そうに言ってくる。
「ああ、そうだ!それでは君が縛ってくれませんか?」
「えっ?」
「君が僕を縛って、お好きなようにしてくださっていいですよ?」
ううっ。それっていつだったか、セレンバーグ氏にどうにかされるんじゃないかと心配したときに、あれこれ考えてしまった僕の妄想に・・・・・気がついたわけじゃないだろうね?
「・・・・・。圭、紅茶の中にブランデーでも入れた?」
「・・・・・ああ、はい。そういうことにしておきましょう」
真っ赤になって言った僕に、圭は嬉しそうに答えてくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・。
そこで唆された僕を馬鹿だといってくれ。
僕らはそのまま二階へと上がってしまったんだ。
寝室に入ると僕の服を圭が脱がせて、そのままベッドに押し倒してくるのがいつものやり方だけど、今日は僕がリードする。好きなようにしていいと言ったんだから、僕が圭を好きにするんだ!
「じっとしてて」
「ええ。君に任せます」
カーテンを引いて薄暗くした寝室は、どこか海底のような趣きをしている。
僕はあの紅のリボンを圭の両手に巻きつけて縛った。
「きつくないかな?」
「いえ。大丈夫ですよ」
「しまった。シャツを脱がせてから縛ればよかったね」
圭のシャツのボタンを外したところで気がついた。
でも今更結びなおすのも面白くないし。・・・・・白いシャツだけを着ていると、彼のたくましいからだを見え隠れしているのは結構視覚的にクるかも。
ズボンのベルトを外しファスナーを開いて脱がせた。靴下を脱がせ、ブリーフも。
「横になって」
ベッドカバーをはずしたベッドに圭を寝かせて、彼の足を跨いで圧し掛かった。
僕もシャツやズボンやら全部脱いでベッドの下に振り落とした。
「いいですね。悠季のこんな姿を下から眺められるなんて。それだけでも価値がありますよ」
満足そうな声で圭が言った。
や、やだな。そんなつもりはなかったのに・・・・・。
でもその言葉に煽られて、どんどんその気になっていく。それじゃあと、もっと昂ぶらせてあげるために手管を尽くすことにした。
太いけど幅広い肩とのバランスがいい首筋から鎖骨、そして胸筋を撫で擦った。わき腹から腰の辺りまでゆっくりとごく軽く。なめらかな筋肉のうねりが気持ちいい。鳩尾の左右にある乳首をくるりと撫でると、うっと息をつめたのが分かった。
くすっ。
「悠季。僕をいじめていますね」
「僕に任せてくれるんだろう?」
「ええ、言いましたよ。ですが、・・・・・君は小悪魔すぎます!!」
「おや、そんな賛辞をもらってはもっと張り切らないといけないね」
僕は上体をかがめて子猫のように彼の乳首を舐めはじめた。そこは僕の舌が触れると同時にきゅっと反応してくれた。と同時に僕のアレに擦りあうようにしている昂ぶりも、ぎゅんと質量を増してくるのが分かる。僕が手を伸ばしてそっと握ると、びくりと身を震わせた。
「もうこっちが我慢できない?」
「・・・・・はい」
僕はからだをずらすと、腹につきそうなほど熱く脈打っているソレをそっと舌に乗せ、ゆっくりと舐めしゃぶり始めた。
「・・・・・ああ、いいです!」
感に堪えたような圭の声が聞こえる。僕は嬉しくなって更に丹念に愛撫を続けた。
「も、もう・・・・・!」
圭の呻きが切迫してきた。
「待って!」
急いで弾けそうな圭の根元を握って止めた。まだだめだって。
「ゆ、悠季っ!」
「僕の中でイって!」
僕は急いで引き出しからジェルを取り出すと自分のアナルにたっぷりと塗り込め、圭のソレにも塗りつけて跨って腰を落とした。
「・・・・・ん。・・・・・ふぅん・・・・・」
よく解さないで入れようとするときついけれど、その分圭をよく感じることが出来るのが嬉しい。
根元を押さえながらじわじわと深く挿入していくと、熱くてみっしりとした感覚が奥へ奥へと入っていくのが分かる。
「・・・・・ああ、いいですよ・・・・・。君の中は熱くて柔らかくて・・・・・最高だ・・・・・」
手を離して入る限界のところまで一気に入れると、その大きさに息が詰まる。
「ああっ!うっくぅ・・・・・っ!」
僕の内部が収縮していくのがありありと分かって・・・・・。
「ゆ、悠季っ!・・・・・も、もうっ・・・・・!」
圭の熱いほとばしりが弾けたのが分かった。
「・・・・・ひどいよ」
僕はまだイってないんだぞ・・・・・!
「す、すみません。君があまりにも魅力的過ぎて・・・・・。ですが、今度は充分満足してもらえるようにしますから」
「・・・・・うん」
圭は少し上体を起こして、繋がりあったままで熱いキスをした。
「ああ、もうこんなに・・・・・!」
僕の中で圭が膨れ上がっていくのが分かる。
「これを外していただけませんか?君ともっと愛し合いたい!」
「だめだよ。まだ僕がしたいようにしていないんだから」
圭は目を見開いて意外だという顔をしていたが、ゆっくりと淫蕩な笑顔を浮かべてうなずいた。
「では、君のお好きなように」
僕は圭にまた寝てもらって、ゆっくりと腰を浮かした。根元まで抜きかけてからずんっと腰を落とすと強烈な刺激が生まれる。
「少しからだを反らせてみませんか?」
「う、うん。・・・・・あっ、ああっ!」
圭の言うとおりにしてみると、思わず声がほとばしった。これってちょうどあの場所に当たるんだ。
「・・・・・いいよ。すごくいい・・・・・!」
僕は夢中で腰を使った。からだを反らしているのはつらいので、圭の腕につかまって夢中で腰をくねらせた。頭の中が真っ白になって、快感を追うことしか考えられなくなってしまう!
「ああっ!ああ、ああん!圭、圭っ!す、すごい!どうにかなっちゃうっ!あああっ!」
「ええ。イイですよ!・・・・・すごくイイ!・・・・・ああ、悠季っ!」
圭の腕に爪を立ててしがみついて、快感をむさぼってしまった。
圭の縛られている手が、僕のアレをしごいて快感を更に増加させている!それもなんだかいつもと感覚が違っているようなのがとても気持ちが良くて・・・・・!
「ああっ!イく!イっちゃうっ!」
「ええ!・・・・・うっ!」
僕は圭の手の中にほとばしらせ、圭も同時に僕の中に熱いものを打ち込んできた。
はあはあと息を切らしながら、力が抜けてしまったからだを倒して圭に抱きついた。圭は僕にキスを求めてきて僕もそれに答えた。
熱くて甘いデザートキスは僕の中にまだ残っている彼を元気にしてしまったようだった。でも、その事情は僕にも同じことで。
「・・・・・とても素敵でしたよ」
「・・・・・そう?」
「ですが、そろそろこれを解いてもらえませんか?」
「ああ、うん。・・・・・いいけど」
僕は圭の手首に巻きつけた、あのリボンを解いていて気がついた。
「・・・・・もしかして、このリボンで擦っていた・・・・・?」
紅いリボンの端の方は僕が吐き出したらしいものでべったりと濡れていた。
「とても気持ちよさそうにしていましたね」
と、 嬉しそうに言ってくれた。
「〜〜〜〜〜っ!・・・・・ばかっ!」
僕はあっという間に全身が真っ赤になっていった。
「では今度は僕の番ですね」
「こ、こらっ!」
こんなときに手際のいいヤツはくるりとからだを入れ替えて、僕をベッドに押し付けるとさっさと僕のペニスにあの紅いリボンを巻きつけてきた!
「さあ!時間はたっぷりありますからね」
「け、圭っ!!あっ・・・・・ああっ・・・・・ああんっ!〜〜〜〜っ!」
僕は次の朝になっても起きられず、圭にベッドの上に朝食を持ってきてもらう破目になった。
これって昔マンションに二人で暮らしていた頃、僕が起きられなくなると圭がコーヒーとトーストと桃缶を持って来てくれた時と変わっていないじゃないか。
もっとも圭の料理の腕が上がっているから、メニューはもっと手が込んでいるけどね。
盆を持つ圭の手首の上の方には痛々しいくらいのミミズ腫れが出来ていて、あちこちにうっすらと血が滲んだところまで出来ていた。でも顔はすごく上機嫌だね・・・・・。
「・・・・・ごめん。なんだかキズをつけちゃったね。今日はこれからM響で仕事なんだろ?」
「構いませんよ。君を煽り立てていたのは僕なのですから、これは自業自得というものです。それにYシャツの袖に隠れてしまいますから他の人には見えませんよ」
「でも、冬とはいっても何かの拍子にこのキズを見られちゃう事だってあるだろう?」
「そのときはごく常識的に『ネコに引っかかれた』とでも言いますよ」
「・・・・・うっ」
飯田さんたちのニヤつく顔が目に浮かぶようだ。
・・・・・ヨかったのは確かだけど。
絶倫で淫乱なヤツ相手に煽るようなことをしちゃいけないってことを僕はつくづく反省した。
でも、それを許している僕も同罪なのかもしれないけどね。
佳子様、キリ番リクエストをいただきまして、ありがとうございました。
このお話は、飽和溶液 Mavu様の【流鏑馬】の絵に刺激を受けて書いたものです。
本来、流鏑馬の絵は
『下になっている者の首に紐をかけ、その紐を手綱に見立ててからだを反らす騎乗位』
というのが主眼らしいのですが、私が気に入ったのは、
たとえ両手を縛られていても、悪戯することを忘れない圭のお手々
という所だったのです。(笑)
騎乗位ということで、eのタイトルが「はいよー、シルバー!」(笑)
昔のアメリカのTVドラマの、『ローンレンジャー』に出て来る名セリフです。
美麗な流鏑馬の絵をごらんになりたい方は、こちらへどうぞ! 飽和溶液
それから、途中に出て来る紅茶の名前はこの間 水薙様から頂いた紅茶の名前でして、
こちらにそのまま書いてしまいました。(笑)
すごく良い香りの紅茶なんです!
2005.11/28 up